VMAJ 2020 - BEST VIDEO OF THE YEAR - あいみょん「裸の心」 あいみょん × 山田智和 対談
―― 「Best Video of the Year」「Best Female Video -Japan-」、二冠受賞したお気持ちを教えてください
あいみょん「ミュージックビデオって、携わってくださっているスタッフさんがいるから出来上がるものなので。もちろん私が受賞したことにはなるんですけど、私はどちらかというと、監督が受賞したって思っていますよ」
山田智和「いやいや、楽曲ありきなので」
あいみょん「謙遜しあってる(笑)」
山田「楽曲が良くないと映像も良くならないので。その相互関係が上手く築けて、表彰いただけたのなら嬉しい限りです」
あいみょん「二つも賞を頂けて、ありがたいですよね。それだけたくさんの方が見てくださったということで、本当に嬉しいです」
山田「この撮影の時って、スタッフの人数とか撮影時間とか移動距離とか制限が多かったんです。制限がある中で自分達だけで何ができるんだ、みたいなところからスタートして、撮影場所もスタジオにシャワーがあるだけなんで。もちろん楽曲のおかげ、あいみょんのおかげではあるんだけど、ロケを好き放題やったり、たくさん美術を入れたり、大人数のスタッフで撮影した作品じゃなくて、『裸の心』が「Best Video of the Year」というのがメチャクチャ嬉しいというか、今年の象徴みたいな作品なので、本当に良かったなと思います」
―― 山田監督は『裸の心』を聞いた時の第一印象はいかがでしたか?
山田「僕は音楽をやってないですけど、創作活動がルーティーンになってくると、求められているものもあるし、なんか見え方を気にして恰好つけたりとか、今までにない他の要素を引っ張ってきたりとかもあると思うんです。もちろんそれも悪いことじゃないですけど、『裸の心』を一番最初に聞いた時に、このタイミングでこの嘘のつかなさというか、この誠実さ、潔さで勝負するんだというのが、あいみょんがすごいなと思ったところで。今までもそう思うことはあったけど、その覚悟が一番強かったと勝手に感じていました。なんでかというと、『さよならの今日に』のミュージックビデオを撮影した現場で、すでに『裸の心』を発表したいってヴィジョンがあったんだよね?」
あいみょん「ずっと言ってましたからね、「この曲は~」って」
山田「撮影終わりで「この曲聞いてください」って言われたのが初めてだったので、そこから気合いが入ったというのはありました」
―― ミュージックビデオは最初からワンカットというコンセプトだったんでしょうか?
あいみょん「実は結構予定が変わっちゃったんですよ。元々はロケしようって話だったんですけど、こういった状況になってどうしても難しくなっちゃって、最初に思い付いていた監督の案は実行できなかったんですよね。そこからどうするんだ、どうするんだ、って打合せを重ねて」
山田「情勢を見ながら、その時にできることやタイミングを探って、3~4か月は考えましたね」
あいみょん「結構、色んな案がありましたよね。プールの中ならいいんじゃないかとか。それで、リリースが延期になったので、ミュージックビデオの制作も遅れることになって。そこから、色んな案を盛り込んでいたけど、原点に戻ろうって話になって、ワンカットでっていうシチュエーションになりました」
―― 最終的に全てを削ぎ落として、楽曲の良さが一番伝わる表現になっていると思いました
山田「本当にそう思います」
あいみょん「撮影自体も3回くらいですよね。撮影の度に服を乾かすのも時間がかかるし、何回も試せなくて大変でしたけど、こういった映像は何回も撮るものでもないので。良い映像が撮れてるんじゃないかと思いながらも、ワンカットだから編集するわけじゃないし、緊張感はメッチャありました」
山田「ワンカットって作品になる前に撮影できたことに満足しちゃうみたいな、逆に成立しちゃう危うさがあるんですよ。ただ、あいみょんチームの良いところは、撮影が成立すること自体は当たり前で、映像にどれだけ曲のイメージや感情が入っているかとか、僕らが楽曲にどれだけ反応できているかを考えてくれるんです。実は使用するテイクをすごい悩んでいて」
あいみょん「あー、そうでしたね。2つあってどっちにする?みたいな」
山田「どっちも良かったんですけど、あいみょんの感情が一番乗っているテイクにしようということになって。ミュージックビデオになっているテイクだけ、僕がステディカムを奪って自分でカメラをやったんです。本能的にやっちゃったというか」
あいみょん「そうそう、メッチャ近付いて撮影したやつですよね」
山田「結果、一番想いが詰まったテイクを作品にできたんじゃないかと思います」
―― 徐々に光が射していく演出が印象的で、より楽曲に引き込まれていくように感じます
あいみょん「ああいう恋愛の曲は、絶望的過ぎてはいけないと思っていて。それはミュージックビデオも同じで、最初は真っ暗で一つの光しか射してないんですけど、そこから楽曲と一緒に光が広がっていくというのは、絶望だけじゃなく希望を与えてるということなので、そういう風に感じてもらえていることは嬉しいですね」
山田「今までのあいみょんのビデオの中で一番明るいかもしれないね」
あいみょん「逆にね(笑)」
山田「今まで僕が作ったミュージックビデオの中で、輝度でいうと一番明るいです」
あいみょん「全てのアーティストさんの作品含めて?」
山田「そう。最後のシャワーのシーンの寄りとかは、普通はカラコレで調整するんだけど、今回はそういうコンセプトじゃなかったから」
あいみょん「あと、シャワーの蒸気でカメラが曇ったんですよ。それがすごい良かったんですよね」
山田「そこに映っているあいみょんは泣いているのか、汗なのか。そういう風に見える良さもありますね(笑)」
あいみょん「それは想像にお任せしようかな。私が泣いてたかどうかは(笑)」
―― お二人の関係性について伺いたいのですが、初めてお会いした時のことは覚えていますか?
山田「『マリーゴールド』の打合せじゃないかな」
あいみょん「その時が「はじめまして」ですね。お会いした時は、イケメンだねって思いました(笑)。目がクリクリってしてて」
山田「誕生日っていいですね(笑)」
あいみょん「そういうことじゃない!誕生日やから言ってるわけじゃないから(笑)」
(※「MTV VMAJ 2020 -THE LIVE-」開催日の11月19日は山田監督の誕生日でした)
あいみょん「別に人見知りしてるわけじゃないですけど、どうとっついていいのか、っていうのは最初は分からなかったですね。だから、第一印象は割と「何を喋ったらいいんだろう」みたいな感じで」
山田「でも僕の言葉を聞き出そうとか、意図を組もうとか、気を使ってくれていて、すごいプレゼンはしやすかったです」
あいみょん「『マリーゴールド』のミュージックビデオの撮影場所が上海になって、初めての海外を捧げる相手になったので(笑)。距離が縮まったのは撮影の時ですかね」
山田「あと、さっきからそうですけど、褒め上手です(笑)。よく「面白そうですね」って言ってくれるんですけど、こっちも探り探りな中で、興味を持ってくれている、一緒にやりましょう!っいうポジティブな姿勢に救われています」
あいみょん「『マリーゴールド』の撮影場所の候補って、北海道か上海のどちらかでしたよね?」
山田「そうだね」
あいみょん「今考えると本当によかったなと思っているのが、ちゃんと興味を持って監督の話を聞いていたことで。私、飛行機が苦手だから「絶対北海道がいい!北海道にしよう!」って最初言ってたんです。結局上海になったんですけど、もしあの時に監督の案を無視して「上海は絶対にない!」って言ってたら、あの雨の映像も撮れてないですからね」
山田「確かにね。あの雨は、あり得ないくらいの豪雨が降ってきて。その時にCGみたいでこれメッチャ良いって思ったんですけど、アーティストのことを考えたら普通は撮影させてくれないじゃないですか。だけど、全然やりましょう!みたいな感じで言ってくれて」
あいみょん「マジであの雨は凄かった。最初は雨止むの待とうってなったけど、急に降ってくるから、最終的にこのままいこうってなりましたね」
山田「信用してなかったわけじゃないですけど、現場でこっちの方がいいものができるんじゃないかという柔軟性だったり、面白いこと至上主義みたいな、一緒にやってくれるマインドを感じて、そういうやり取りの中で僕はすごく信用できるようになった。普段のキャッチボールの上手さより、現場で起こったことに対して反応しあえる方が人をより信じれるというか。あいみょんとは一発目で良い撮影ができたので、そこからはスムーズにやれている気が個人的にはしています」
―― その信頼関係があってこそ、『裸の心』のミュージックビデオにつながっている気がしますね
あいみょん「あれは「はじめまして」じゃ撮れないですよ。あの距離感は「はじめまして」じゃ無理です」
―― あいみょんさんが山田監督の作品で好きな作品はありますか?
あいみょん「ミュージックビデオじゃないですけど、GMOクリック証券のCMかな。ガッキー(新垣結衣)をあんなに美しく撮れるんやと思って」
山田「マジで!嬉しい!あれ、いつかやってほしいです」
あいみょん「いや、私がGMOクリック証券ってやばいでしょ。できるわけないじゃないですか!」
山田「いや、音楽で!」
あいみょん「あー、音楽ね!自惚れたやん!私がガッキーの方ですかって思った(笑)。でも、智和さんの作品は私の作品が一番良いと思ってますよ。特に『マリーゴールド』は傑作だと思ってますけどね。今見てもすごい青春を思い出す感じがするんですよ。こそばくなるというか。あとは『さよならの今日に』かな」
山田「『さよならの今日に』は良かったよね。良いカットが撮影できた時って自分だけじゃないんですよね、震えているのが。あの現場ではスタッフがみんな、あいみょんに痺れたのをすごく覚えてる」
あいみょん「スタッフみんながのめり込んでた感じがあって、撮影されているレンズ越しからも伝わるものがありました」
―― お二人にとってミュージックビデオとは?
あいみょん「究極、作らなくてもいいものっちゃあ、いいものになりません?」
山田「うん、そう思う」
あいみょん「でも、ミュージックビデオは昔からずっとあって、私はやっぱりミュージックビデオを作りたいんですよ。本当はアルバム全曲のミュージックビデオを作りたいって思うくらい。平成生まれで、映像ありきで音楽がある時代に育ったので、結果あるべきものですかね。あと映像作品として楽しめるものって考えると、ミュージックビデオだけじゃなく、映画もドラマもCMも同じだと思っています。『裸の心』もそうですけど、ドラマの主題歌ということでたくさんの方に聞いてもらえましたし、それをきっかけにミュージックビデオも見てもらえて、本当にありがたいなと思います」
山田「音楽と映像って一番相性が良いというか、お互いにとって良いことがあると思います。映像の立場でいうなら、音楽のおかげでテンポや情感が生まれたり、表現の自由を与えてくれる。例えばドラマだと物語の説明が必要になりますけど、ミュージックビデオは説明しなくても曲自体が物語ってくれるから、ナラティヴな演出をやらなくていいとでもいうか。そこを超えた映像のコミュニケーションがあって、抽象から具体まで幅広く許されているので、スタートからそもそも発想が自由になることができるメディアだと思います」
あいみょん「助け合いでよね、ミュージックビデオって。映像が音楽に助けられつつ、音楽が映像に助けられつつ、助け合いの結晶みたいな」
―― 今後、お二人でやってみたい作品のイメージなどはありますか?
あいみょん「何がやりたいかな…。金箔で黄金とか?(笑)。案は日々たくさん出てくるんですよ。次のミュージックビデオでこういうことをやってみたいなとか。今の映像業界ってすごい方がいっぱいいるから、全部現実にしますよね。マジで魔法使い(笑)。自分の莫大な妄想とかも、監督に相談してみると叶ったりするから、やってみたいことはたくさんあります。私もカメラを回してみたいかも」
山田「メッチャいいね、それ」
あいみょん「智和さんって映像だけじゃなく、写真もメッチャ良くて。いつも撮られてるばかりだから、写真を撮っているところを見ると、私もそっち側に行きたくなる。だから、私がミュージックビデオを作って、その裏側をミュージックビデオにしてほしい。どういう風に作品が作られているのかみたいな。難しいかもしれないけど」
山田「面白いね、それ。岩井俊二監督の映画『虹の女神』みたいな感じかな。映画サークルの話なんだけど、途中で映画の中で作っている映画が出てきて、一瞬どっちか分からなくなるみたいな。僕はミュージックビデオでいうとバンドシーンを撮りたいですね」
あいみょん「確かに撮ったことないですよね」
山田「今までのミュージックビデオが割とイメージの中でやってもらっているので、音楽家としてカッコよく撮ってみたいというのは逆にやってみたい。あと、こういう時代になって配信が主流になってきたことで、ミュージックビデオもライブも音楽番組も差がなくなってきていると思っていて。例えばミュージックビデオも演出に入っているライブとか、映画やショートフィルムっぽいものとかもやってみたいですね」
あいみょん「きっとなんだって出来ちゃうと思いますね、映像も音楽も可能性しかないから」